て、
「まあ汚《きたな》い足」といった。松次郎と木之助は食べながら自分の足を見ると、ほんとに女中のいった通りだった。紺足袋《こんたび》の上に草鞋《わらじ》を穿《は》いていたが、砂埃《すなぼこり》で真白だった。二人は仕方ないので黙々と御馳走を手でつまんではたべた。
「まあ、乞食《こじき》みたい」。しばらくするとまた女中が刺すような声でいった。指の間にくっついた飯粒を舌の先でとりながら、木之助が松次郎を見ると、いかにも女中がいった通り松次郎は乞食の子のようにうすぎたなく見えた。松次郎もまた、木之助を見てそう思った。
「まあ、よく食べるわ、豚みたい」。木之助が五つ目の握飯をたべようとして口をあいたとき女中がまたいった。木之助は、ほんとにそうだと思って、ぱくりと喰《く》いついた。
「耳の中に垢《あか》なんかためて」。しばらくするとまた女中がいった。木之助は松次郎の耳の中を見ると、果《はた》して汚く垢がたまっていた。松次郎の方でも木之助の耳の中にたまっている垢をみとめた。
やがて衝立《ついたて》の向うに、とんとんという足音が聞えて来ると、女中はついと身を翻《ひるがえ》して何処《どこ》かへ行って
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