の悪そうな女中《じょちゅう》が、手に大きい皿《さら》を持って出て来たが、その時もまだ二人は、どうしたものかと思案《しあん》にくれて土間《どま》につったっていた。
 女中はつん[#「つん」に傍点]としたように皿を式台《しきだい》の上に置くと、
「おたべよ」と突慳貪《つっけんどん》にいって、少し身を退《ひ》き、立ったまま流しめに二人の方を見おろしていた。皿の中にはうまそうな昆布巻《こんぶまき》や、たつくりや、まだ何かが一ぱいあった。
「よばれていこうよ」と松次郎がいった。木之助もたべたくなったのでうんと答えて胡弓を弓と一しょにして式台の隅《すみ》の方へそっと置くと、女中は胡弓をじろりと見た。
 松次郎と木之助は、はやく女中がひっこんでくれないかなと思いながら、式台に腰をおろして腰の風呂敷包《ふろしきつつみ》をほどいた。中から竹皮に包まれた握り飯があらわれた。女中はそれも横目でじろりと見た。
 食べにかかると握り飯も御馳走《ごちそう》もすばらしく美味《うま》いので、女中のことなどそっちのけにしてむしゃむしゃ頬張《ほおば》った。女中はじっとそれを見ていたが、もう怺《こら》えられなくなったと見え
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