《た》べながら、稚児《ちご》さんが二つの扇を、眼にもとまらぬ速さでまわしながら、舞台の上で舞うのを見ていました。その稚児さんは、お白粉《しろい》をぬりこくって顔をいろどっているけれど、よく見ると、お多福湯《たふくゆ》のトネ子でありましたので、
「あれ、トネ子だよ、ふふ」
とささやきあったりしました。
 稚児さんを見てるのに飽くと、くらいところにいって、鼠花火《ねずみはなび》をはじかせたり、かんしゃく玉を石垣《いしがき》にぶつけたりしました。
 舞台を照らすあかるい電燈には、虫がいっぱい来て、そのまわりをめぐっていました。見ると、舞台の正面のひさしのすぐ下に、大きな、あか土色の蛾《が》がぴったりはりついていました。
 山車《だし》の鼻先のせまいところで、人形の三番叟《さんばそう》が踊りはじめる頃は、すこし、お宮の境内《けいだい》の人も少《すくな》くなったようでした。花火や、ゴム風船の音もへったようでした。
 子供たちは山車の鼻の下にならんで、仰向いて、人形の顔を見ていました。
 人形は大人《おとな》とも子供ともつかぬ顔をしています。その黒い眼は生きているとしか思えません。ときどき、またた
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