くすぐったいので、とつぜん、ひぁっ[#「ひぁっ」に傍点]というような声をあげてわらいだした。そして久助君の方にぶつかってきた。
そこでふたりは、おたがいが、ねこの子のようなものになってしまったことを感じた。それからふたりは、ほし草にくるまりながら、上になり下になりしてくるいはじめた。
しばらくのあいだ、久助君は、じょうだんのつもりで、くるっていた。相手もそのつもりでやっていることだと思っていた。ところが、そのうちに、久助君はひとつの疑問にとらわれだした。どうも相手は、本気になってやっているらしい。久助君を下からはねのけるときに、久助君の胸をついたが、どうも、じょうだん半分のあらそいの場合の力の入れかたとはちがっている。また、久助君を上からおさえつけるときの、相手のやせた腕が、ぶるぶるとふるえている。じょうだん半分なら、そんなことはないはずである。
相手がしんけんなら、こちらもしんけんにならなきゃいけない、と久助君はそのつもりになって、一生けんめいにやりだしたが、そうするうちに、まもなくまた、つぎの疑問がわいてきた。やはり、兵太郎君は、じょうだん半分と心得《こころえ》てくるっているらしい。久助君の手が、あやまって相手のわきのしたから、熱《ねつ》っぽいふところにもぐりこんだとき、兵太郎君はクックッとわらったからである。
相手がじょうだんでやっているのなら、こちらだけしんけんでやっているのは、男らしくないことなので、こちらもそのつもりになろうと思っていると、まもなくまた、まえの疑問があたまをもたげる。
ふたつの疑問が交互《こうご》にあらわれたり消えたりしたが、ふたりはともかくくるいつづけた。
久助君は顔をほし草におしつけられて、ほし草をくわえたり、ほし草があるつもりでひっくり返ったところにほし草がなくて、頭をじかに地べたにぶつけ、じーんと頭じゅうが鳴りわたって、あついなみだがうかんだりした。
また、しっかりと、複雑に、手足を相手の手足にからませているときは、じぶんと相手の足の区別など、はっきりつかないので、相手の足をおさえつけたつもりで、じぶんのもう一方の足をおさえつけたりしていることもあった。
とっくみあいは、夕方までつづいた。おびはゆるみ、着物はだらしなくなってしまい、じっとりあせばんだ。
なんどめかに、久助君が上になって兵太郎君をおさえつけたら、も
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