がるようにもたれかかった。
 久助君は、徳一君のところにもなかまたちはいないことがわかって、がっかりした。が、兵太郎君の動作《どうさ》をみたら、きゅうに、ここで兵太郎君とふたりきりで遊ぼう、それでも十分おもしろいという気がわいてきた。ほし草の積んであるところとか、つぼけ[#「つぼけ」に傍点](藁積《わらぐま》)のならんでいるところは、子どもには、ひじょうにたくさんの楽しみをあたえてくれるものだ。そこで、久助君も兵太郎君のそばへいって、じぶんのからだをゴムまりのようにほし草にむかって投げつけた。ほし草はふわりと、やわらかにあたたかく、久助君をうけとった。とたんに、ヒチヒチと音をたてて、ばった[#「ばった」に傍点]が頭の上から豆畑の方へ飛んでいった。
 久助君は、頭や耳に草のすじがかかったが、とろうとしなかった。ほし草の山は、昼間じゅう太陽にあたためられていたので、そこにもたれかかっていると、おかあさんのふところにだかれていたじぶんを思い出させるような、ぬくとさだった。久助君は、ねこのようにくるいたい衝動《しょうどう》が、からだの中にうずうずするのを感じた。
「兵タン、すもうとろうかやァ」
と、久助君はいった。
「やだ。きのう、すもうしとって、そでちぎって、家でしかられたもん」
と、兵太郎君がこたえる。そして、ひざをびんぼうゆるぎさせながら、あおむけに空を見ている。
「んじゃ、かえるとびやろかァ」
と、久助君がいう。
「あげなもな、おもしろかねえ」
と、兵太郎君は一言のもとにはねつけて、鼻をキュッと鳴らす。
 久助君はしばらくだまっていたが、ものたりなくてしょうがない。ころころと兵太郎君の方へころがり近づいていって、草の先を、あおむいている兵太郎君の耳の中へ入れようとした。
 兵太郎君はほらふき[#「ほらふき」に傍点]で、ひょうきん[#「ひょうきん」に傍点]で、人をよくわらわせるが、こういう種類のからかいはあまりこのまない。自尊心《じそんしん》がきずつけられるからだ。
「やめよォッ」
と、兵太郎君がどなった。
 兵太郎君がおこって、久助君にむかってくれば、それは久助君の望むところだった。
「あんまり耳くそがたまっとるで、ちょっとそうじしてやらァ」
といって、久助君はまた草の先で、兵太郎君の頭にぺしゃんとはりついた耳をくすぐる。
 兵太郎君はおこっているつもりであったが、
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