となる風のすきまに、巨男《おおおとこ》のつちの音がかすかに聞こえてきました。やはり王様も巨男《おおおとこ》をあわれにお思いになったのか、
「こんな夜に働かせておくのは気《き》の毒《どく》だ。それにあの男は、おとなしい。明日《あした》はもうあの仕事をやめさせよう。」とひとりいわれました。そんなことはすこしも知らずに、巨男《おおおとこ》はこつこつやっていました。そして、どんなことをしたら白鳥をなかせてお姫様《ひめさま》にさせることができるだろうと考えていました。ふと、巨男《おおおとこ》は自分が死んだら――と考えました。そこで、温かい巨男《おおおとこ》の背《せ》でねむっている白鳥に話しかけました。
「私が死んだら、お前は悲しくないか?」
すると白鳥は眼《め》をさまして、「そんなことをしてはいけない」というように羽ばたき[#「ばたき」に傍点]しました。
「私が死んではいけないのかい? それなら、私が死んだらお前は涙《なみだ》を流すにちがいない。よし! 私はお前のために天国へいこう。」
巨男《おおおとこ》は立ちあがって、背中《せなか》から白鳥をおろしました。白鳥は、とめようとして、巨男《おお
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