おとこ》の着物のはしを引きました。巨男《おおおとこ》は、白鳥と最後の頬《ほお》ずりをして、
「では、かわいい白鳥よ、さようなら、お前はもとの美しいお姫様《ひめさま》に帰るのだよ……」といって、高い塔《とう》の上から身を投げました。地に落ちるとただちに死んでしまいました。
 白鳥は、どんなになげいたことでしょう。涙《なみだ》は滝《たき》のように出ました。そして、そのとき魔法《まほう》はとけて、うるわしいもとの王女になりました。王女はなきじゃく[#「じゃく」に傍点]りながら、高い塔《とう》の階段《かいだん》をころがるように走りおりて、お父さまの王様の部屋にとびこみました。
 そして、いままでのことを王様に話したんです。王様はそれを聞いて、面《おもて》をふせて巨男《おおおとこ》に謝罪《しゃざい》し、また感謝《かんしゃ》しました。
 まもなく、王様から都《みやこ》の人びとへそれが伝えられたとき、都の人びともないて巨男《おおおとこ》にあやまりました。
 巨男《おおおとこ》のむくろ[#「むくろ」に傍点]は月桂樹《げっけいじゅ》の葉でおおわれて都の東にある沙丘《さきゅう》に葬《ほうむ》られました。

前へ 次へ
全11ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
新美 南吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング