の宮殿《きゅうでん》は、美しいけれど、大理石の建物《たてもの》がないのは、玉にきずだとある旅人《たびびと》が申《もう》していました。大理石の塔《とう》でもたてられてはいかがですか?」
「なるほど、それはよかろう、しかし、大理石というのは、いったいどこにあるのか?」
「ここから、ずーっと南の方へ、山を一つと沙漠《さばく》を一つこえていくと一つの部落に着きます。そこに、大理石はいくらでもあるそうです。」
「そうか、けれどだれがとりにいくのか?」
「それは、いま都《みやこ》にいる巨男《おおおとこ》がよいでしょう。彼はたけが椰子《やし》の木ほどで、一足で小さな丘《おか》をこえてしまいます。」
「では、その男をよべ。」

 巨男《おおおとこ》は宮殿《きゅうでん》につれられていきました。そして王様から、大理石をとりにいくように命ぜられました。にげるといけないからというので、巨男《おおおとこ》の足には鉄の鎖《くさり》がむすばれました。
「ではいってきます。」と巨男《おおおとこ》はいって、やはり白鳥をつれ、南の方へ旅立ちました。巨男《おおおとこ》の進むにつれて、宮殿《きゅうでん》にたまっていた鎖《くさり》が少なくなりました。ちょうど十九日目に、その鎖《くさり》のたまりはなくなって、はしが太い柱にむすばれてある鎖《くさり》は、ピンとはりました。
 そのときには、巨男《おおおとこ》も種々|難儀《なんぎ》をして、大理石の部落に着いていました。部落の人びとは、たいへん親切でしたので、大理石をいくらでもくれました。巨男《おおおとこ》は大きな大理石を三つもらって、それを背負《せお》い、白鳥をその上にとまらして帰途《きと》につきました。
 都《みやこ》の方では、はっていた鎖《くさり》がゆるんできたので、人びとはそれをたぐりました。帰りには、重い石をもっていたので、巨男《おおおとこ》は三十日かかってやっと都に到着《とうちゃく》しました。

 苦しい長い旅のために、巨男《おおおとこ》はやつれはてて枯木《かれき》のようになりました。しかしそれでもゆるされなかったんです。すぐその日から、宮庭《きゅうてい》の泉《いずみ》のほとりに、大理石で塔《とう》をたてることをおおせつかりました。けれど、心の美しい巨男《おおおとこ》は、けっしてなげいたり、悲しんだりしなかったのですよ。命ぜられた通り、毎日毎夜、つちとの
前へ 次へ
全6ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
新美 南吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング