では、誰《だれ》でもそんなことを挨拶《あいさつ》のようにいいあうのがつねでした。
 二人《ふたり》が椿《つばき》のところへもどって来《く》ると、そこに自転車《じてんしゃ》をとめて、一人《ひとり》の男《おとこ》の人《ひと》が立《た》っていました。その頃《ころ》は自転車《じてんしゃ》が日本《にっぽん》にはいって来《き》たばかりのじぶんで、自転車《じてんしゃ》を持《も》っている人《ひと》は、田舎《いなか》では旦那衆《だんなしゅう》にきまっていました。
「誰《だれ》だろう。」
と、利助《りすけ》さんが、おどおどしていいました。
「区長《くちょう》さんかも知《し》れん。」
と、海蔵《かいぞう》さんがいいました。そばに来《き》てみると、それはこの附近《ふきん》の土地《とち》を持《も》っている、町《まち》の年《とし》とった地主《じぬし》であることがわかりました。そして、も一つわかったことは、地主《じぬし》がかんかんに怒《おこ》っていることでした。
「やいやい、この牛《うし》は誰《だれ》の牛《うし》だ。」
と、地主《じぬし》は二人《ふたり》をみると、どなりつけました。その牛《うし》は利助《りすけ》さんの牛《うし》でありました。
「わしの牛《うし》だがのイ。」
「てめえの牛《うし》? これを見《み》よ。椿《つばき》の葉《は》をみんな喰《く》ってすっかり坊主《ぼうず》にしてしまったに。」
 二人《ふたり》が、牛《うし》をつないだ椿《つばき》の木《き》を見《み》ると、それは自転車《じてんしゃ》をもった地主《じぬし》がいったとおりでありました。若《わか》い椿《つばき》の、柔《やわ》らかい葉《は》はすっかりむしりとられて、みすぼらしい杖《つえ》のようなものが立《た》っていただけでした。
 利助《りすけ》さんは、とんだことになったと思《おも》って、顔《かお》をまっかにしながら、あわてて木《き》から綱《つな》をときました。そして申《もう》しわけに、牛《うし》の首《くび》ったまを、手綱《たづな》でぴしりと打《う》ちました。
 しかし、そんなことぐらいでは、地主《じぬし》はゆるしてくれませんでした。地主《じぬし》は大人《おとな》の利助《りすけ》さんを、まるで子供《こども》を叱《しか》るように、さんざん叱《しか》りとばしました。そして自転車《じてんしゃ》のサドルをパンパン叩《たた》きながら、こういいま
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