いじゃないかと思って、はき出そうとした。するととたんに、そのにがかったものが、すずしいあまさに変わって、じつに口の中が爽快《そうかい》になったので、久助君はひとりで、クックッとわらいだしてしまった。なんだ、こんなもんか。ハッカのもとというようなものなんだな。しかし、すぐにまた、舌の先がにがみをおぼえはじめ、久助君は顔をしかめずにはおれなかった。しかし、いまにまた、すずしくあまくなるだろうと思って、がまんしていた。はたして、まもなくそのとおりになった。これで久助君には、この玉のしかけがわかった。にがくなったり、あまくなったり、交互《こうご》にくり返すようになっているのだ。ところで、三どめににがくなってきたとき、久助君はもういやになって、はき出してしまった。それはとけて、茶色のつばになっていた。はき出したあとで口をあけて空気をすいこむと、これはまた、なんという爽快《そうかい》なことだろう! 久助君の小さな口の中に、すずしい秋の朝が、ごっそりひとつはいりこんだみたいだ。久助君はその爽快味《そうかいみ》を満喫《まんきつ》するため、大きく口をあけて、ハアーッハアーッと呼吸しながら、家まできてしま
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