」に傍点]をもらしながら、すこししせいをくずすが、またすぐ、熱心に先生の方をながめるのであった。それだけのことで、久助君には、太郎左衛門が、じぶんたちのように道のほこりや草の中でそだってきたものではないことがわかり、太郎左衛門をすきにもなれば、なにかもの悲しい思いでもあったのである。
あるとき久助君は、いつものようにじぶんの席から、その美しい少年をながめていた。それは、ひとりの美しい少年であった。この美しい少年は、いったいなんという名だろうと、久助君は思った。そしてすぐ、なァんだ、太郎左衛門じゃないかと、口の中でいった。
ふいと久助君は、まえに、江川太郎左衛門《えがわたろうざえもん》というえらい人物の伝記を、ある雑誌で読んだことを思い出した。よくはおぼえていないが、江戸時代の砲術家《ほうじゅつか》で、伊豆《いず》の韮山《にらやま》に反射炉《はんしゃろ》というものをきずいて、そこで、そのころとしてはめずらしい大砲を鋳造《ちゅうぞう》したという人である。そして、れんがを積みあげてつくったらしい反射炉の図と、びっくりした人のように目玉の大きい、ちょんまげすがたの江川太郎左衛門の肖像《しょ
前へ
次へ
全31ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
新美 南吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング