いったのだそうである。それを聞いて久助君は、なるほど、おとなはうまいことを考えるものだなと思った。
こんなぐあいに太郎左衛門は、久助君の世界にはいってきた。
二
岩滑《やなべ》の学校はいなかの学校だから、なんといっても、都会ふうの少年はみんなの目をひくのである。久助君も最初から、なんとなく太郎左衛門に心をひかれたのだが、よい機会がないので近づけなかった。徳一君にしても、加市君にしても、音次郎君にしても――できのよい連中はみな、久助君と同じような気持ちなのだ。それが、おたがいにあまりよくわかっているので、だれも手を出そうとしないのであった。で、久助君は、課業中にいつのまにか、太郎左衛門をじっとながめているじぶんに気づくことがあった。
太郎左衛門は、久助君より前の方の、南のまどぎわにいたので、久助君のところからはちょうど、右の大きい目玉と、美しく光るかみの毛でとりまかれた、形のよいつむじが見えた。太郎左衛門は、その大きい目で、教科書の字を長いあいだ見ていては、おもむろに先生の方へ視線をむけて、話に聞き入っていた。どうかすると、課業にうんで、かすかなといき[#「といき
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