暗くてよくは見えなくっても、さァっと生気の流れたのがわかった。足がぼうのようにつかれているのも忘れて、みんなはそっちへ走った。
いちばんあとからついていきながら、久助君は、だが待てよと、心の中でいった。あまり有頂天《うちょうてん》になると、幸福ににげられるという気がしたからであった。なにしろ、あいては太郎左衛門なのだから、真《ま》にうけることはできないはずだ。
そう考えると、またこんどもうそのように、久助君には思えるのであった。
そして久助君は、時計をならべた明るい小さい店のところにくるまで、太郎左衛門をうたがっていた。しかし、そこが、ほんとうに太郎左衛門の親せきの家だった。
太郎左衛門からわけを聞いておどろいたおばさんが、
「まあ、あんたたちは……まあまあ!」
と、あきれてみんなを見わたしたとき、久助君は、救われたと、思った。すると、きゅうに足から力がぬけて、へたへたとしきいの上にすわってしまったのであった。
それから五人は、時計屋のおじさんにつれられて、電車で岩滑《やなべ》まで帰ってきたのであったが、電車の中では、おたがいにからだをすりよせているばかりで、ひとこともものを
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