るのは、当然のことだと、久助君は思った。

       六

 ついに、みんなが太郎左衛門のうそのため、ひどいめにあわされるときがきた。それは、五月のすえのよく晴れた日曜日の午後のことであった。
 なにしろ場合がわるかった。みんなが――というのは、徳一君、加市君、兵太郎君、久助君の四人だが――たいくつでこまっていたときなのだ。
 麦畑は黄色になりかけ、遠くからかえるの声が、村の中まで流れていた。道は紙のように白く光を反射し、人はめったに通らなかった。
 みんなは、この世があまり平凡なのにうんざりしていた。どうしてここには、小説のなかのように出来事がおこらないのだろう。
 久助君たちは、なにか冒険みたいなことがしたいのであった。あるいは、英雄のような行為《こうい》をして、人びとに強烈な感動をあたえたいのであった。
 そう思っているところへ、その道角《みちかど》から、太郎左衛門がひょっこりとすがたをあらわしたのである。そしてかれは、まっすぐみんなのところへくると、目をかがやかせていった。
「みんな知ってる? こんど、大きなくじら[#「くじら」に傍点]が、新舞子《しんまいこ》で見世物になっ
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