郎左衛門はどんなことをしているのだろう、おとなのことばでいえば、どんな生活をしているのだろうと、ちょっと思うのであった。しかし、あまりその中にはいってみたいとは思わなかった。
なにしろ、ばかにしんかんとしているのである。古めかしくてしんかんとしている――、そういうところを、久助君はこのまないのだ。
あるとき久助君は、太郎左衛門についてその門の中にはいった。
庭はあんがいせまかった。だが、久助君の目をひきつけたものがそこにあった。まっ四角な深い池で、底の方に緑色のにごった水がよどんでいた。四方の石がきにはこけがいっぱいついて、石の色はすこしも見えない。つまり、この一升ますのような形の池は、なにからなにまで緑色である。そして水の中には、こいがいるらしい。ところどころ、水の緑色の中に、ぼんやりした赤や、白がみとめられるのは、たしかにそれだ。久助君はしばらくのぞいていると、なまぐさいいやなにおいが鼻につきはじめた。そればかりか、この池全体が、なにか、子どもによそよそしい感じをもっていることがわかったので、じきそばをはなれてしまった。
久助君は、招かれてふじの花のさいている縁側《えんがわ
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