《く》る。どうか悪《わる》く思《おも》わんでくだされや、笑《わら》うから。」
といって、口《くち》をあけて笑《わら》うのでした。
「いや、この、涙《なみだ》というやつは、まことにとめどなく出《で》るものだね。」
とかしらは、眼《め》をしばたきながらいいました。
 それから五|人《にん》の盗人《ぬすびと》は、お礼《れい》をいって村役人《むらやくにん》の家《いえ》を出《で》ました。
 門《もん》を出《で》て、柿《かき》の木《き》のそばまで来《く》ると、何《なに》か思《おも》い出《だ》したように、かしらが立《た》ちどまりました。
「かしら、何《なに》か忘《わす》れものでもしましたか。」
と鉋太郎《かんなたろう》がききました。
「うむ、忘《わす》れもんがある。おまえらも、いっしょにもういっぺん来《こ》い。」
といって、かしらは弟子《でし》をつれて、また役人《やくにん》の家《いえ》にはいっていきました。
「御老人《ごろうじん》。」
とかしらは縁側《えんがわ》に手《て》をついていいました。
「何《なん》だね、しんみりと。泣《な》き上戸《じょうご》のおくの手《て》が出《で》るかな。ははは。」
と老人
前へ 次へ
全31ページ中27ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
新美 南吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング