《かき》の木《き》の上《うえ》や、物置《ものおき》の中《なか》や、いい匂《にお》いのする蜜柑《みかん》の木《き》のかげを探《さが》してみたのでした。人《ひと》にきいてもみたのでした。
 しかし、ついにあの子供《こども》は見《み》あたりませんでした。百姓達《ひゃくしょうたち》は提燈《ちょうちん》に火《ひ》を入《い》れて来《き》て、仔牛《こうし》をてらして見《み》たのですが、こんな仔牛《こうし》はこの辺《あた》りでは見《み》たことがないというのでした。
「かしら、こりゃ夜《よ》っぴて探《さが》してもむだらしい、もう止《よ》しましょう。」
と海老之丞《えびのじょう》がくたびれたように、道《みち》ばたの石《いし》に腰《こし》をおろしていいました。
「いや、どうしても探《さが》し出《だ》して、あの子供《こども》にかえしたいのだ。」
とかしらはききませんでした。
「もう、てだてがありませんよ。ただひとつ残《のこ》っているてだては、村役人《むらやくにん》のところへ訴《うった》えることだが、かしらもまさかあそこへは行《い》きたくないでしょう。」
と|釜右ヱ門《かまえもん》がいいました。村役人《むらやく
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