》しちゃったのだね。」
 |釜右ヱ門《かまえもん》が仔牛《こうし》を見《み》ていいました。かしらは涙《なみだ》にぬれた顔《かお》を見《み》られまいとして横《よこ》をむいたまま、
「うむ、そういってきさまたちに自慢《じまん》しようと思《おも》っていたんだが、じつはそうじゃねえのだ。これにはわけがあるのだ。」
といいました。
「おや、かしら、涙《なみだ》……じゃございませんか。」
と海老之丞《えびのじょう》が声《こえ》を落《お》としてききました。
「この、涙《なみだ》てものは、出《で》はじめると出《で》るもんだな。」
といって、かしらは袖《そで》で眼《め》をこすりました。
「かしら、喜《よろこ》んで下《くだ》せえ、こんどこそは、おれたち四|人《にん》、しっかり盗人根性《ぬすっとこんじょう》になって探《さぐ》って参《まい》りました。|釜右ヱ門《かまえもん》は金《きん》の茶釜《ちゃがま》のある家《いえ》を五|軒《けん》見《み》とどけますし、海老之丞《えびのじょう》は、五つの土蔵《どぞう》の錠《じょう》をよくしらべて、曲《ま》がった釘《くぎ》一|本《ぽん》であけられることをたしかめますし、大工《
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