の背中《せなか》に負《お》われている猿《さる》に、柿《かき》の実《み》をくれてやったら、一口《ひとくち》もたべずに地《じ》べたにすててしまいました。みんながじぶんを嫌《きら》っていたのです。みんながじぶんを信用《しんよう》してはくれなかったのです。ところが、この草鞋《わらじ》をはいた子供《こども》は、盗人《ぬすびと》であるじぶんに牛《うし》の仔《こ》をあずけてくれました。じぶんをいい人間《にんげん》であると思《おも》ってくれたのでした。またこの仔牛《こうし》も、じぶんをちっともいやがらず、おとなしくしております。じぶんが母牛《ははうし》ででもあるかのように、そばにすりよっています。子供《こども》も仔牛《こうし》も、じぶんを信用《しんよう》しているのです。こんなことは、盗人《ぬすびと》のじぶんには、はじめてのことであります。人《ひと》に信用《しんよう》されるというのは、何《なん》といううれしいことでありましょう。……
 そこで、かしらはいま、美《うつく》しい心《こころ》になっているのでありました。子供《こども》のころにはそういう心《こころ》になったことがありましたが、あれから長《なが》い
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