涙《なみだ》が出《で》て来《き》やがった。」
ところが、その涙《なみだ》が、流《なが》れて流《なが》れてとまらないのでありました。
「いや、はや、これはどうしたことだい、わしが涙《なみだ》を流《なが》すなんて、これじゃ、まるで泣《な》いてるのと同《おな》じじゃないか。」
そうです。ほんとうに、盗人《ぬすびと》のかしらは泣《な》いていたのであります。――かしらは嬉《うれ》しかったのです。じぶんは今《いま》まで、人《ひと》から冷《つめ》たい眼《め》でばかり見《み》られて来《き》ました。じぶんが通《とお》ると、人々《ひとびと》はそら変《へん》なやつが来《き》たといわんばかりに、窓《まど》をしめたり、すだれをおろしたりしました。じぶんが声《こえ》をかけると、笑《わら》いながら話《はな》しあっていた人《ひと》たちも、きゅうに仕事《しごと》のことを思《おも》い出《だ》したように向《む》こうをむいてしまうのでありました。池《いけ》の面《おもて》にうかんでいる鯉《こい》でさえも、じぶんが岸《きし》に立《た》つと、がばッと体《たい》をひるがえしてしずんでいくのでありました。あるとき猿廻《さるまわ》し
前へ
次へ
全31ページ中16ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
新美 南吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング