鞋《わらじ》をはいた子供《こども》はあとをも見《み》ずにいってしまいました。
ぼけんとしているあいだに牛《うし》の仔《こ》を持《も》たされてしまったかしらは、くッくッと笑《わら》いながら牛《うし》の仔《こ》を見《み》ました。
たいてい牛《うし》の仔《こ》というものは、そこらをぴょんぴょんはねまわって、持《も》っているのがやっかいなものですが、この牛《うし》の仔《こ》はまたたいそうおとなしく、ぬれたうるんだ大《おお》きな眼《め》をしばたたきながら、かしらのそばに無心《むしん》に立《た》っているのでした。
「くッくッくッ。」
とかしらは、笑《わら》いが腹《はら》の中《なか》からこみあげてくるのが、とまりませんでした。
「これで弟子《でし》たちに自慢《じまん》ができるて。きさまたちが馬鹿《ばか》づらさげて、村《むら》の中《なか》をあるいているあいだに、わしはもう牛《うし》の仔《こ》をいっぴき盗《ぬす》んだ、といって。」
そしてまた、くッくッくッと笑《わら》いました。あんまり笑《わら》ったので、こんどは涙《なみだ》が出《で》て来《き》ました。
「ああ、おかしい。あんまり笑《わら》ったんで
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