ないので、かしらはひょこんと跳《と》びあがりました。そして、川《かわ》にとびこんで向《む》こう岸《ぎし》へ逃《に》げようか、藪《やぶ》の中《なか》にもぐりこんで、姿《すがた》をくらまそうか、と、とっさのあいだに考《かんが》えたのであります。
 しかし子供達《こどもたち》は、縄切《なわき》れや、おもちゃの十手《じって》をふりまわしながら、あちらへ走《はし》っていきました。子供達《こどもたち》は盗人《ぬすびと》ごっこをしていたのでした。
「なんだ、子供達《こどもたち》の遊《あそ》びごとか。」
とかしらは張《は》り合《あ》いがぬけていいました。
「遊《あそ》びごとにしても、盗人《ぬすびと》ごっことはよくない遊《あそ》びだ。いまどきの子供《こども》はろくなことをしなくなった。あれじゃ、さきが思《おも》いやられる。」
 じぶんが盗人《ぬすびと》のくせに、かしらはそんなひとりごとをいいながら、また草《くさ》の中《なか》にねころがろうとしたのでありました。そのときうしろから、
「おじさん。」
と声《こえ》をかけられました。ふりかえって見《み》ると、七|歳《さい》くらいの、かわいらしい男《おとこ》の子
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