チユーリツプ
新美南吉

 學校の歸りに君子さんはお友達のノリ子さんにうちのチユーリツプの自慢をしました。
「うちで咲いたチユーリツプは、お花屋さんが賣りに來るのより五倍も綺麗なのよ。」
「あら、いゝわね。」とお友達のノリ子さんは羨しさうにきいて首をかしげました。
「クレイヨンの赤とどつちが赤いかくらべて見たのよ。そしたらクレイヨンの赤の方がづつとうすくつて汚いの。」
「あらそをを。」
「うちの母さんがいつてたわ、この花から口紅がとれやしないだらうかつて。」
「そをを。」

「ノリ子ちやんがあの花寫生なさつたら最優等よ、きつと。」
「あら、そんなことありませんわ。」
「昨日球根を埋めたんだけど、まだ二つか三つ殘つてたから、母さんにきいてノリ子ちやんにあげてもいゝわ。」
「頂いてもよくつて。」
「きつと母さんいゝつていふわよ。」
 ちやうどその時ノリ子さんのお家の前に來ました。
「それぢや明日の朝持つて來てあげるわね」といつて君子さんはノリ子さんと別れました。家に歸つてお母さんにきくと、あげなさい、と仰言いました。そこで次の朝ノリ子さんを誘ひにいく時二つの球根を乾葡萄の空箱に入れて持つて
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