いきました。
「ノーリ子ちやん。」と君子さんは垣根越しに呼びました。するとノリ子さんの代りに、ノリ子さんのお姉さんが、
「はーい」と返事なさいました。あら、と思つてゐるとお姉さんが玄關から出ていらして、
「ノリちやんはお熱があるので學校へいけませんのよ。」と仰言いました。あまり驚いたので君子さんはチユーリツプの球根のことも忘れてしまつて「そをを」といつたきり、何もいはないで學校へ來てしまひました。
お家に歸つてから君子さんはチユーリツプの球根を庭のゆすら梅のかげに埋めました。そして春になつて花が咲いたらノリ子さんにあげようときめました。
ノリ子さんはご病氣が癒らないらしく、一週間たつても二週間たつても學校へ來ませんでした。そのうちに寒い冬が來て、クリスマスが來てお正月が來て、それからたうとう春がやつて來ました。梢が見えないほど高い欅に、細い芽がちよくちよく顏を出して來ました。
或日學校の歸りに君子さんがノリ子さんのお家の前を通りかゝると、生垣の中で聲がしてゐましたので、隙間から覗いて見ました。
庭にはピジヤマを着たノリ子さんがお姉さんに手をひかれて、そろりそろり歩いてゐました。
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