縁側にはお母さんが立つて見てゐらつしやいました。
「姉さん、もう一ぺん垣根のとこまでいきましよう。」とノリ子さんがいひました。
「そんなに歩いてもいゝの?」と姉さんはあやぶまれました。でも、ノリ子さんがこんなに歩かれるやうになつたことがうれしくてたまらないらしく、赤ん坊みたいに兩手をとつてノリ子さんを垣根の方へ歩ませて來られました。
「あら、姉さん、とつてもきれいな夕燒ね。」とノリ子さんが立ち止りました。姉さんも空を仰いで、
「本當。」とおつしやいました。姉さんの美しい眼が涙で光つてゐることが垣根の蔭で覗いてる君子さんにすぐ解りました。君子さんも何だか泣きたいやうな氣持になりました。
もう十日もたつたらノリさん、學校へいかれるかも知れない――と思ひながら家へ歸つて見ると、ノリ子さんにあげる筈のチユーリツプの蕾がゆすらうめのかげで綻びかけてゐました。
底本:「校定 新美南吉全集第四巻」大日本図書
1980(昭和55)年9月30日初版第1刷発行
1987年(昭和62)年2月15日第3刷発行
初出:「ひろった らっぱ」羽田書店
1950(昭和25)年5月1日
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