た、それからこうきたから、こうにげたが、あれはやっぱり、こっちのところへ、こうわたるべきだったなどと、むちゅうになって、歩いてきました。そのうちに、その村のはずれに近い、烏帽子《えぼし》をつくる家の前まできますと、もう冬の日も、とっぷりくれかけてきました。
しばらくしてなんの気もなく、ふと、うしろをふりかえってみますと、じきうしろに、犬が一ぴきついてきています。きつね色の毛をした、耳のぴんとつったった、あばらの間のやせくぼんだ、ぶきみな、よろよろ犬です。どこかここいらの、かい犬だろうと思いながら、また碁《ご》のことを考えながらいきました。
一、二|丁《ちょう》いって、またふりむいてみますと、さっきのやせ犬が、まだとぼとぼあとを追ってきています。うす暗いおうらいのまん中で、二、三人の子どもが、こまをまわしています。
「おい、坊《ぼう》。この犬はどこの犬だい。」
子どもたちは、こまを足でとめて、御坊《ごぼう》の顔と犬とを見くらべながら、
「おらァ、知らねえ。」
「おいらも、知らねえ。」
といいました。
常念御坊《じょうねんごぼう》は、村を出はずれました。左右は麦畑のひくい岡《おか》
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