で、人っ子ひとりおりません。うしろを見ると、犬がまだついてきています。
「しっ」といって、にらみつけましたが、にげようともしません。足をあげて追うと、二、三|尺《じゃく》ひきさがって、じっと顔を見ています。
「ちょっ、きみのわるいやつだな。」
 常念御坊《じょうねんごぼう》は、舌《した》うちをして、歩きだしました。あたりはだんだんに、暗くなってきました。うしろには犬が、のそのそついてきているのが、見なくもわかっています。
 すっかり夜になってから、峠《とうげ》の下の茶店のところまできました。まっ暗い峠を、足さぐりでこすのはあぶないので、茶店のばあさんに、ちょうちんをかりていこうと思いました。
 おばあさんは、ふろをたいていました。ちょうちんだけかりるのも、へんなので、常念坊《じょうねんぼう》は、
「おい、おばあさん。だんごは、もうないかな。」
とききました。
「たった五くしのこっていますが。」
「それでいい。つつんでおくれ。」
「はいはい。」
と、おばあさんは、だんごを竹の皮につつみます。
「すまないが、わしに、ちょうちんをかしておくれんか。あした、正観《しょうかん》にもってこさせるで
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