たけのこ
新美南吉


 たけのこは はじめ じびたの したに いて、あっち こっちへ くぐって いく もので あります。
 そして、あめが ふった あとなどに ぽこぽこと つちから あたまを だすので あります。
 さて、この おはなしは、まだ その たけのこが じびたの なかに いた ときの ことです。
 たけのこたちは とおくへ いきたがって しようが ないので、おかあさんの たけが、
「そんなに とおくへ いっちゃ いけないよ、やぶの そとに でると うまの あしに ふまれるから」
と しかって おりました。
 しかし、いくら しかられても、ひとつの たけのこは どんどん とおくへ もぐって いくので ありました。
「おまえは なぜ おかあさんの いう ことを きかないの」
と おかあさんの たけが ききました。
「あっちの ほうで うつくしい やさしい こえが わたしを よぶからです」
と その たけのこは こたえました。
「わたしたちには なんにも きこえやしない」
と ほかの たけのこたちは いいました。
「けれど、わたしには きこえます。それは もう なんとも いわれぬ
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