「僕《ぼく》に一つ新《あたら》しい提案《ていあん》がある。」
といった。みんなは何《なん》だろうかと思《おも》った。
「それは、今《いま》のお爺《じい》さんを町《まち》までつれていって、ごんごろ鐘《がね》にあわしてあげることだ。」
みんなは黙《だま》ってしまった。なるほどそれは、誰《だれ》もが胸《むね》の中《なか》でおもっていたことだ。いいことには違《ちが》いない。しかしみんなは、昨日《きのう》、町《まち》まで行《い》って来《き》たばかりであった。また今日《きょう》も、同《おな》じ道《みち》を通《とお》って同《おな》じところに行《い》って来《く》るというのは面白《おもしろ》いことではない。
しかし、
「賛成《さんせい》。」
と、紋次郎君《もんじろうくん》がしばらくしていった。
「僕《ぼく》も賛成《さんせい》。」
と勇気《ゆうき》をふるって僕《ぼく》がいった。すると、あとのものもみな賛成《さんせい》してしまった。
「本日《ほんじつ》の常会《じょうかい》、これで終《お》わりッ。」
と松男君《まつおくん》が叫《さけ》んで、たあッと門《もん》の外《そと》へ走《はし》り出《だ》した。みんなそのあとにつづいた。
亀池《かめいけ》の下《した》でお爺《じい》さんの乳母車《うばぐるま》に追《お》いついた。僕《ぼく》たちはお爺《じい》さんの息子《むすこ》さんにわけを話《はな》して、お爺《じい》さんをこちらへ受《う》けとった。お爺《じい》さんは子供《こども》のように喜《よろこ》んで、長《なが》い顔《かお》をいっそう長《なが》くして、あは、あは、と笑《わら》った。僕《ぼく》たちもいっしょに笑《わら》い出《だ》してしまった。
何《なに》も心配《しんぱい》する必要《ひつよう》はなかった。昨日《きのう》通《とお》ったばかりの道《みち》でも、少《すこ》しも退屈《たいくつ》ではなかった。心《こころ》に誠意《せいい》をもって善《よ》い行《おこな》いをする時《とき》には、僕《ぼく》らはなんど同《おな》じことをしても退屈《たいくつ》するものではない、とわかった。それにお爺《じい》さんがいろいろ面白《おもしろ》い話《はなし》をしてくれた。
ただ一つ困《こま》ったことは、乳母車《うばぐるま》のどこかが悪《わる》くなっていて、押《お》していると右《みぎ》へ右《みぎ》へとまがっていってしまうことだった。だから押《お》す者《もの》は、十|米《メートル》ぐらいすすむたびに、乳母車《うばぐるま》のむきをかえねばならなかった。僕《ぼく》たちはこのやっかいな乳母車《うばぐるま》をかわりばんこに押《お》していったのである。
正午《しょうご》じぶんに、僕《ぼく》たちは町《まち》の国民学校《こくみんがっこう》についた。昨日《きのう》のところになつかしいごんごろ鐘《がね》はあった。
「やあ、あるなア、あるなア。」
と、お爺《じい》さんは鐘《かね》が見《み》えたときいった。そして、触《さわ》りたいからそばへ乳母車《うばぐるま》をよせてくれ、といった。僕《ぼく》たちは、お爺《じい》さんのいうとおりにした。
お爺《じい》さんは乳母車《うばぐるま》から手《て》をさしのべて、なつかしそうにごんごろ鐘《がね》を撫《な》でていた。
僕《ぼく》たちは弁当《べんとう》を持《も》っていなかったので腹《はら》ぺこになって、村《むら》に二|時頃《じごろ》帰《かえ》って来《き》た。それから深谷《ふかだに》までお爺《じい》さんを届《とど》けにいってくるのは楽《らく》な仕事《しごと》ではなかった。が、感心《かんしん》なことに誰《だれ》もいやな顔《かお》をしなかった。僕《ぼく》らはびっこをひきひき深谷《ふかだに》までゆき、お爺《じい》さんをかえして来《き》た。
夕御飯《ゆうごはん》のとき、きょうのことを話《はな》したら、お父《とう》さんが、それはよいことをした、とおっしゃった。
「ん、そういえば、あのごんごろ鐘《がね》は深谷《ふかだに》のあたりでつくられたのだ。いまでもあの辺《あた》りに鐘鋳谷《かねいりだに》という名《な》の残《のこ》っている小《ちい》さい谷《たに》があるが、そこで、鋳《い》たということだ。その頃《ころ》の若《わか》いもんたちは、三日三晩《みっかみばん》、たたら[#「たたら」に傍点]という大《おお》きなふいごを足《あし》で踏《ふ》んで、銅《かね》をとかす火《ひ》をおこしたもんだそうだ。」
それでは、あのお爺《じい》さんもまたごんごろ鐘《がね》と深《ふか》いつながりがあったわけだ。
僕《ぼく》は又《また》してもおもい出《だ》した、吉彦《よしひこ》さんが鐘《かね》をつくとき言《い》った言葉《ことば》を――「西《にし》の谷《たに》も東《ひがし》の谷《たに》も、北《きた》の谷《たに》も南《み
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