《ひ》っ組《く》んだ。そして足掛《あしか》けで倒《たお》そうとしたが、比良夫君《ひらおくん》は相撲《すもう》の選手《せんしゅ》だから、逆《ぎゃく》に腰《こし》をひねって松男君《まつおくん》を投《な》げ出《だ》してしまった。
 こんどは用吉君《ようきちくん》が、得意《とくい》の手《て》で相手《あいて》の首《くび》をしめにかかったが、反対《はんたい》に自分《じぶん》の首《くび》をしめつけられ、ゆでだこのようになってしまった。
 そんなことをしている間《あいだ》に、鐘《かね》をのせた牛車《ぎゅうしゃ》はもうしんたのむね[#「しんたのむね」に傍点]をおりてしまっていた。五|年《ねん》以上《いじょう》の者《もの》は、気《き》がせいてたまらなかった。ぐずぐずしていると、ついに鐘《かね》にいってしまわれるおそれがあった。そこで、比良夫君《ひらおくん》のことなんかほっといて、みんな鐘《かね》めがけて走《はし》った。総勢《そうぜい》十五|人《にん》ほどであった。鐘《かね》に追《お》いついてみると、ちゃんと比良夫君《ひらおくん》がうしろについて来《き》ていた。みんなは少《すこ》しいまいましく思《おも》ったが、考《かんが》えてみると、それだけ比良夫君《ひらおくん》の熱心《ねっしん》がつよいことになるわけだから、みんなは比良夫君《ひらおくん》を許《ゆる》してやることにした。
 川《かわ》の堤《つつみ》に出《で》たとき、紋次郎君《もんじろうくん》が猫柳《ねこやなぎ》の枝《えだ》を折《お》って来《き》て鐘《かね》にささげた。ささげたといっても、鐘《かね》のそばにおいただけである。すると、みんなは、われもわれもと、猫柳《ねこやなぎ》をはじめ、桃《もも》や、松《まつ》や、たんぽぽや、れんげそうや、なかにはペンペン草《ぐさ》までとって来《き》て鐘《かね》にささげた。鐘《かね》はそれらの花《はな》や葉《は》でうずまってしまった。
 こうして僕《ぼく》たちは村《むら》でただひとつのごんごろ鐘《がね》を送《おく》っていった。

 三|月《がつ》二十三|日《にち》
 ひるまえ、南道班《みなみみちはん》子供常会《こどもじょうかい》をするために尼寺《あまでら》へいった。
 いつも常会《じょうかい》をひらくまえに、境内《けいだい》をみんなで掃除《そうじ》することになっているのだが、きょうは僕《ぼく》はひとつみんな
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