かぶと虫
新美南吉

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)うまやの角《かど》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)がに[#「がに」に傍点]
−−

         一

 お花畑から、大きな虫が一ぴき、ぶうんと空にのぼりはじめました。
 からだが重いのか、ゆっくりのぼりはじめました。
 地面から一メートルぐらいのぼると、横に飛びはじめました。
 やはり、からだが重いので、ゆっくりいきます。うまやの角《かど》の方へ、のろのろといきます。
 見ていた小さい太郎は、縁側《えんがわ》からとびおりました。そして、はだしのまま、ふるいを持って追っかけていきました。
 うまやの角をすぎて、お花畑から、麦畑へあがる草の土手《どて》の上で、虫をふせました。
 とってみると、かぶと虫でした。
「ああ、かぶと虫だ。かぶと虫とった。」
 と、小さい太郎はいいました。けれど、だれも、なんともこたえませんでした。小さい太郎は、兄弟《きょうだい》がなくてひとりぼっちだったからです。ひとりぼっちということは、こんなとき、たいへんつまらないと思います。
 小さい太郎
次へ
全9ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
新美 南吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング