ぼうしをかむり、かぶと虫を糸のはしにぶらさげて、門口《かどぐち》を出ていきました。
 昼は、たいそうしずかで、どこかでむしろをはたく音がしているだけでした。
 小さい太郎は、いちばんはじめに、いちばん近くの、くわ畑の中の金平《きんぺい》ちゃんの家へいきました。金平ちゃんの家には、しちめんちょうを二わかっていて、どうかすると、庭に出してあることがありました。小さい太郎はそれがこわいので、庭まではいっていかないで、いけがきのこちらから中をのぞきながら、
「金平ちゃん、金平ちゃん。」
 と、小さい声でよびました。金平ちゃんにだけ聞こえればよかったからです。しちめんちょうにまで、聞こえなくてもよかったからです。
 なかなか金平ちゃんに聞こえないので、小さい太郎は、なんどもくりかえしてよばねばなりませんでした。
 そのうちに、とうとう、うちの中から、
「金平はのォ。」
 と、返事がしてきました。金平ちゃんのおとうさんのねむそうな声でした。
「金平は、よんべから腹《はら》がいとうてのォ、ねておるのだで、きょうはいっしょに遊べんぜェ。」
「ふウん。」
 と、聞こえないくらいかすかに鼻の中でいって、小
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