ひっし》でした。
「よいとまァけ。」
松吉は、声をはりあげました。
するとこんどは、杉作ばかりでなく、克巳《かつみ》までがいっしょに、
「よいとまァけ。」
と、応じました。
克巳もまた、必死だったのです。
三人とも必死でした。必死である人間の気持ちほど、しっくり結びあうものはありません。
松吉は、じぶんたち三人の気持ちが、ひとつのこぶしの形に、しっかり、にぎりかためられたように感じました。そうすると、いままでの百倍もの力が、ぐんぐんわいてきました。
「よいとまァけ。」
と、松吉。
「よいとまァけ。」
と、杉作と克巳。
きゅうに、たらい[#「たらい」に傍点]が、速くなったように思われました。もう土手《どて》は、すぐそこでした。そら、もう、よし[#「よし」に傍点]の一本が、たらい[#「たらい」に傍点]にさわりました。
克巳は、いなかの松吉、杉作の家に十日ばかりいたのですが、最後のこの日ほど、三人がこころの中で、なかよしになったことはありませんでした。
池から家へ帰ってくると、三人はこころもからだも、くたくたにつかれてしまったので、ふじだなの下の縁台《えんだい》に、おな
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