けには、いきません。三人は足を動かしました。はじめのうちは、調子《ちょうし》がそろわないので、ひとつところであばれているばかりでした。が、そのうちに、三人は同じ方へ水をけりました。たらい[#「たらい」に傍点]は、すこしずつ、池の中心にむかって、進みはじめました。
長い時間がたちました。
三人はへとへとになりました。もう足を動かすのがいやになりました。さて、三人は、どこまできたのでしょう。じぶんたちの位置《いち》を見て、三人はびっくりしました。いまちょうど、池のまん中にいるではありませんか。
まわりの山で、せみは鳴きたてています。気ばかりあせります。しかし、からだはもう動きません。
「もう、おれ、およげん。」
と弟の杉作が、なきだすまえのわらい顔でいいました。
松吉も、なきたい気持ちでした。だまって目をつむりました。
「ぼくも、もう、だめや。」
と、克巳《かつみ》もいいました。
松吉は目をひらくと、きっぱり、
「もどろう、そろそろいこう。」
と、いいました。
そして、たらい[#「たらい」に傍点]を、ぎゃくの方向に、ぐいとひとつおしました。
杉作も克巳も、だまっていまし
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