けには、いきません。三人は足を動かしました。はじめのうちは、調子《ちょうし》がそろわないので、ひとつところであばれているばかりでした。が、そのうちに、三人は同じ方へ水をけりました。たらい[#「たらい」に傍点]は、すこしずつ、池の中心にむかって、進みはじめました。
 長い時間がたちました。
 三人はへとへとになりました。もう足を動かすのがいやになりました。さて、三人は、どこまできたのでしょう。じぶんたちの位置《いち》を見て、三人はびっくりしました。いまちょうど、池のまん中にいるではありませんか。
 まわりの山で、せみは鳴きたてています。気ばかりあせります。しかし、からだはもう動きません。
「もう、おれ、およげん。」
 と弟の杉作が、なきだすまえのわらい顔でいいました。
 松吉も、なきたい気持ちでした。だまって目をつむりました。
「ぼくも、もう、だめや。」
 と、克巳《かつみ》もいいました。
 松吉は目をひらくと、きっぱり、
「もどろう、そろそろいこう。」
 と、いいました。
 そして、たらい[#「たらい」に傍点]を、ぎゃくの方向に、ぐいとひとつおしました。
 杉作も克巳も、だまっていまし
前へ 次へ
全25ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
新美 南吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング