した。杉作であることがわかると、松吉ははらがたってきました。
「なんだァ、あんなばかみてな声をだして。」
 すると杉作は、うしろも見ないで、こういうのでした。
「あっこの木のてっぺんに、とんび[#「とんび」に傍点]がとまったもんだん、大砲《たいほう》を一発うっただげや。」
 それでは、しかたがありません。
 また、しばらくふたりはだまっていきました。
 また松吉は、考えはじめました――克巳《かつみ》はきょう、うちにいるだろうか。おれたちの顔を見たら、どんなに喜ぶだろう。いぼはうまく、腕《うで》についたろうか。おれのいぼは、ひとつ消えてしまったけど。
 松吉は、じぶんの右手をそっと見ました。

         三

 町にはいると、ふたりは、じぶんたちが、きゅうにみすぼらしくなってしまったように思えました。
 これでは、ぼうしの徽章《きしょう》を見なくても、山家《やまが》から出てきたことがわかるでしょう。第一、町の人は、こんなふうに、魂《たましい》をぬかれたように、きょろんきょろんとあたりを見ていたり、荷馬車にぶつかりそうになって、どなりつけられたりはしません。ところが、このきょろんき
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