てみると、尖端《さき》に泥が乾《かわ》き着いていた、足許に気がつくと柱の根元三寸程の所塀に密接して、新しく土を埋めたらしく柔らかくなっている竹片を紙にくるんで懐中《ポケット》へ入れると台所の方へ歩いていった。
襷《たすき》がけ忙《せわ》しく働いていた下女は二人とも、春日の姿を見ると叮嚀にお辞儀をした、その一人の方へ近づくと優しく、
「貴方でしたか昨夜《ゆうべ》お嬢様のお伴をなすったのは……飛んだ御心配ですね、お忙しいのに気の毒ですが少しお尋ねします、昨夜最初ここへ帰ったときは何時でしたか」
「十時三十五分には少し前でした」
「裏の納屋の方は誰れがいつもお掃除をせられますか」
「毎朝お嬢様が運動だと仰有ってお掃きなさいますので、妾《わたし》達はあそこの掃除をしたことはございません」
「お嬢様のお召物を買うのはいつも主に何処です、それから当家の墓地は何処ですか」
「横町の大村屋《おおむらや》で御座います、お墓は○△寺です」
「よく気のつく愉快な方であったと思いますが、前は気難しい沈だ方ではなかったですか」
「よく御存じですこと、この春までは仰言るとおり陰気なお方で、お変りになったのには妾
前へ
次へ
全19ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
山下 利三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング