ことに頓着せず押入の隅から、火気のない火鉢を障子の際まで持出し、頻りに灰を掻廻し何やら紙を出して包んだ、そして更に机や手文庫を逐一調べて腑に落ちないか、チェッと舌撃《したうち》をしたが、突如《いきなり》しゃがむと机の下から座蒲団と共に、皺になった新しい手巾《ハンカチーフ》を引摺出した、飽かず眺めてちょっと鼻に嗅《か》いで満足らしい笑《えみ》を漏した。善兵衛は莫迦莫迦《ばかばか》しいと云ったふうに、顔を外向《そむけ》てしまった、こんどは渡邊の描いた見取図を受取て、
「フーム、Fの字見たいな建方だな、この離れが一番上の横線に該当するね、中庭を隔てて御主人の居間と向合うて二階が弟さんの御部屋か……」こう呟いて沓脱《くつぬぎ》の駒下駄を履くと、グルッと庭を廻って座敷の裏手へ出た、そこは納屋と空地があり、忍返しのついた黒板塀で囲われてある、足許に注意しながら春日は塀の隙間《すきま》から覗いた、外は小路を隔てて向側は他家《よそ》の塀で、通行は稀らしい。
眼を離すとき左手の丸木柱と塀との間に、六寸程の竹片《たけぎれ》が挟んであるのを見附て、指を差込だが春日の指に比べて隙間が少し狭かった、漸く取出し
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