の利く森本庄右衛門《もりもとしょうえもん》の次男から結婚の申込を受けた、善兵衛からゆき子の意嚮《いこう》を聞くと、一週間ほど考えさせてくれとのことで、漸《やっ》と一昨日《おととい》内諾の意を父に伝えた、善兵衛は大に歓んだ、初め新田の方に差支があれば何程かの持参金附で養子に行《やっ》てもよいと先方からの申條《もうしじょう》に大変乗気で、此良縁こそ逃すまいと力を入れて、明日にも橋本氏へ承諾の回答を送るべき矢先であった。
春日《かすが》が電話に接して、助手兼秘書の渡邊《わたなべ》を同伴《つれ》て新田家を見舞ったのは第二の脅迫状の着いた間もなくで主人は二人を客間に通して、具《つぶさ》に昨夜以来の出来事を語り、証拠の書状二通をも渡して見せた、春日は渡邊に顛末《てんまつ》をすべて速記させ、尚手紙も詳細に調べたがそれは、預って懐中《ポケット》へ収めた。
「どうでしょう、万一娘に瑕《きず》でもつけられるようなことになると困りますから、至急□□市へ出張して調べて貰えませんか」
「それよりお嬢様のお部屋を調査させて貰いましょう、誰れか朝から、そこを掃除するか出入した方がありますか」
「否《いや》昨夜私が
前へ
次へ
全19ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
山下 利三郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング