済になったのです」
「エー……それは一週間程になりますねえ」
「ではこちらの方は?」
「それは一昨日お手打が済みました」
 春日は自ら手帳を出しこれを写して、そこを出ると懐中《ポケット》から時計を覗かせて、ちょっと眺めると、突如《いきなり》どしどし急速に歩き出したので、渡邊は呆れて眼を円くしながら、後れじと跡を逐《お》わねばならなかった、十分間もこんな状態が続くと、春日は△△中学校と門標のある中へサッサと這入り、名刺を出して校長に面会を求め、少時《しばらく》何か話していたが軈《やが》て生徒名簿を借受けて、拡げ出した、或一頁を読耽《よみふけ》っているから、渡邊が速記簿を出そうとすると、春日は黙って、首を振って静かに名簿を閉じると同時に、放課の鈴《りん》を小使が振った。
 門を出ると春日は渡邊を顧みて、
「サアもう一軒訪問したら今日はおしまいだぜ」
 渡邊は苦笑しながら、
「今朝の事件に関係があるんですか」
「まアそうだね」
「随分複雑してるじゃありませんか」
「なアに平凡さ、新田の爺さんは可愛想に運を掴み損なって居るんだね」
 道は稍《やや》通行人が少くなって、店舗《みせや》は稀にしかな
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