て、引返し停留場附近を探し求めたが、更に判らないので律気な彼女は半泣の体で帰って来て、善兵衛に斯《か》くと告げた、善兵衛も驚いて心当りへ電話で聞合せたり、居合す店員を指揮して知辺《しるべ》を尋ねたが皆手を空《むな》しく帰って来たのである。
 其うち善兵衛が娘の部屋を調べると、机の抽出から戦慄《せんりつ》すべき脅迫状が現れた。白の封筒に白い書簡箋《レターペーパー》に左《さ》の意味が書かれてあった。
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今迄数回の通告に応諾の意を表さなかった貴女《あなた》は当然制裁を甘受せねばなりません、明夜十時三十分を期して密《ひそ》かに、戸外へ出て一丁東の四辻まで来て下さい、この命令に従うことが、貴女及び貴女の家にとって、最も安全な得策で万一、不注意、反抗等から秘密の漏洩《ろうえい》や命令不履行の際は必然降るべき復讐の手が如何に惨虐苛酷であるかは覚悟してもらわねばならぬ。
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[#地付き]音羽組

 兇悪なる毒手が紙背に潜むが如き、凄い文句であった、善兵衛は各若い者に自身も混って、停車場や郊外電車起点へ見張をしたが、何の効《かい》もなく何れも夜が明けてから悄然
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