誘拐者
山下利三郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)帰途《かえりみち》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)綿布問屋|新田善兵衛《にったぜんべえ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「口+耳」、第3水準1−14−94]
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        上 悪魔の手

 綿布問屋|新田善兵衛《にったぜんべえ》の娘ゆき子は公会堂からの帰途《かえりみち》何者かに誘拐されてしまった、当夜伴をして一緒に行った女中の話によると同夜××夫人の演奏会が済んで公会堂を出た主従は電車に乗って家近くの停留場で降りた、家の方へ曲ろうとするとゆき子は弟の善太郎《ぜんたろう》に喰《たべ》させる菓子を女中に買いにやった、女中は菓子を買い求めて前の所に来て見ると、主人の姿がなかったので待たずに帰ったのかと思って、戸を開け離座敷のゆき子の室《へや》へ行ったが帰って居ない、善兵衛に聞くとまだ帰らないという、店の若い人達も娘の姿を見たものがない、女中は怪訝《けげん》な顔をし
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