時間には、私はまだ空家になった私の家でただ一人、行李《こうり》に凭《もた》れかかって黙想に耽っていたのでしたから。
 私は心から中谷の陋劣《ろうれつ》な心事を憎みました。どうかして復讐してやりたいという望みを押えることができません、そこで取調べのとき中谷の聞いている前でこう云ってやりました。
(蕗子と私とはかなり長い間特別な交際を続けていました。私がこの土地へ来て間なしに彼女と知り合い、精神的にも物質的にも私としては出来るだけの好意と愛とを寄せていました。死んだ彼女の母も或程度まではそれを黙っていてくれたのです。それが近頃になって蕗子は私に、ある男が云い寄ってくるので困るがどうしたら好かろうかと話しました。その男というのは私におおかた察しがついていました。
 私はいろいろ考えてみました、蕗子と私とはかなり年齢も違っています。私としては相続しなければならない家もありますので、養子を迎えなければならない蕗子に、幸福な結婚生活をさせるについては種々障害があります。そこで蕗子によく云含めて私は快く一旦手を切りました。ところが折角《せっかく》私の心づかいも無になって蕗子の口からその男の非難をよく
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