しい出来ごとでしょう。
医者らしい男の外に制服の警官たちが、険しい眼付《めつき》で私を迎えたその脚下には、蕗子が白い胸も露わにあけはだけたまま倒れています。
蒼白い蝋《ろう》のような頬には髪が乱れかかり、その頸には燃えるような真紅の紐が捲きつけてありました。
そして呆れている私の顔を見て、冷《せせ》ら笑っている警官の手には何と、誰が封を切ったものか私から蕗子に宛てて投込《なげこん》だ手紙が握られていました。それきり私はすッと四辺《あたり》が暗くなって深い深い谿《たに》へ落ちてゆくように感じましたが、その後は誰が何を云ったのやら、判然《はっきり》とおぼえて居りません。
けれども現実は飽くまで現実です。
蕗子殺害の嫌疑をうけた私は厳しい取調べをうけました。私が急に家を畳んで旅に出ようとしたのが一番いけなかったので、旅立とうとした悲壮な心持なんかは説明したところで係官にはよく理解ができなかったのです。中谷も参考人として喚《よ》ばれましたが、親しかった以前に引かえて、彼は冷然と私に不利な証言をしました。
現場不在証明《アリバイ》……そんなことは出来ませんでした、何でも蕗子が殺された
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