いる筈ですのに、いま映った影法師はたしか毬栗頭《いがぐりあたま》だったではありませんか。
不思議さのあまり呆然そこに佇んでいると、不意に背後から私の利腕《ききうで》をぐッと掴んだものがあります、愕《おどろ》いて振顧《ふりかえ》ると見も知らない男が私の方を睨みつけながら、ぐいぐい腕を引張ります。不意ではあり何のことだか夢のような心持で、抵抗《てむか》いもせず扈《つ》いてゆくと、その男は私を蕗子の家の表口から連れこみました。
すべてこの出来事が私にとって解けない謎だったのです。
台所には蕗子の妹で十三か四になる艶子《つやこ》が、近所の内儀《おかみ》さんたち二三人に囲まれて、畳に打伏したまま潸々《さめざめ》と泣いていました。
その次の間の仏壇にはつい先月|窒扶斯《ちぶす》で亡くなった母親の位牌《いはい》が、灯明の灯にてらされながら、立ちのぼる淋しい香煙に絡《から》まれていました。その次が蕗子の居間です。
内部の情景を一目見せられた私は、想わずあっと愕《おどろ》きの叫びを立てましたが、俄《にわか》に体中が慄《ふる》え出し、奥歯のかちかち触れ合うのが止みません……何という惨《むご》たら
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