友《しんゆう》に高橋順益《たかはしじゅんえき》という医師《いし》あり。至《いたっ》て莫逆《ばくげき》にして管鮑《かんぽう》啻《ただ》ならず。いつも二人|相《あい》伴《ともな》いて予が家に来り、互《たがい》に相《あい》調謔《ちょうぎゃく》して旁人《ぼうじん》を笑わしめたり。一日、予が妻、ワーフルという菓子《かし》を焼《や》き居たりしを先生見て、これは至極《しごく》面白《おもしろ》し、予もこの器械《きかい》を借用《しゃくよう》して一ツやって見《み》たしとのことにつき、翌日これを老僕《ろうぼく》に持《も》たせ遣《つかわ》しければ、先生|大《おおい》に喜び、やがて自《みず》から麺粉《めんふん》[#「麺粉」は底本では「麺紛」]に鶏卵《けいらん》を合せ焼《や》き居られしが、高橋も来りてこれを見て居けるうち、鶏卵の加減《かげん》少し度《ど》に過《す》ぎたる故《ゆえ》、ぱちぱちと刎出《はねだ》し、先生の衣服《いふく》は勿論《もちろん》、余滴《よてき》、高橋にも及びしかば、高橋|例《れい》の悪口《わるくち》を言出せば、先生、黙《だま》って見て居《お》れ、その代《かわ》りに我れ鰻飯《うなぎめし》を汝《なん
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