ぼく》額《ひたい》を蹙《しか》め、有《あ》り有り、大変《たいへん》が有りたりという。先生手を挙《あ》げて、そは姑《しば》らく説《と》くを休《や》めよ、我まずこれを言わん、浮浪《ふろう》の壮士《そうし》が御老中《ごろうじゅう》にても暗殺《あんさつ》せしにはあらざる歟《か》と。老僕聞て大に驚《おどろ》き、過《すぐ》る三月三日、桜田《さくらだ》の一条《いちじょう》を語《かた》りければ、一船ここに至りて皆はじめて愕然《がくぜん》たり。
予が新銭座《しんせんざ》の宅《たく》と先生の塾《じゅく》とは咫尺《しせき》にして、先生毎日のごとく出入《しゅつにゅう》せられ何事も打明《うちあ》け談ずるうち、毎《つね》に幕政《ばくせい》の敗頽《はいたい》を嘆《たん》じける。間《ま》もなく先生は幕府|外国方翻訳御用《がいこくかたほんやくごよう》出役《しゅつやく》を命ぜらる。或日、先生、役所よりの帰途《きと》、予が家に立寄《たちよ》り、今日|俸給《ほうきゅう》を受取りたりとて、一歩銀《いちぶぎん》廿五両|包《づつみ》二|個《こ》を手拭《てぬぐい》にくるみて提《さ》げ来られ、予が妻《さい》に示《しめ》し、今日《きょ
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