いず、蕎麦《そば》もこの頃は止《や》めました、粥《かゆ》と野菜《やさい》少し許《ばか》り、牛乳《ぎゅうにゅう》二合ほどつとめて呑《の》みます、すべて営養上《えいようじょう》の嗜好《しこう》はありませんと。この日、先生|頗《すこぶ》る心《こころ》能《よ》げに喜色《きしょく》眉宇《びう》に溢《あふ》れ、言語も至《いたっ》て明晰《めいせき》にして爽快《そうかい》なりき。
談《だん》、刻《こく》を移して、予《よ》、暇《いとま》を告げて去らんとすれば、先生|猶《なお》しばしと引留《ひきとめ》られしが、やがて玄関《げんかん》まで送り出られたるぞ、豈《あに》知《し》らんや、これ一生《いっしょう》の永訣《えいけつ》ならんとは。予が辞去《じきょ》の後、先生例の散歩《さんぽ》を試《こころ》みられ、黄昏《こうこん》帰邸《きてい》、初夜《しょや》寝《しん》に就《つか》れんとする際|発病《はつびょう》、終《つい》に起《た》たれず。哀哉《かなしいかな》。
嗚呼《ああ》、先生は我国の聖人《せいじん》なり。その碩徳《せきとく》偉業《いぎょう》、宇宙に炳琅《へいろう》として内外幾多の新聞|皆《みな》口を極《きわ》め
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