たる事を聞き、かかる暴政《ぼうせい》の下に在《あり》ては何時《いつ》いかなる嫌疑《けんぎ》をうけて首を斬《き》られんも知れずと思い、その時|筐中《きょうちゅう》に秘《ひ》し置《おき》たる書類《しょるい》は大抵《たいてい》焼捨《やきすて》ました、今日と成《な》りては惜《お》しき事をしましたと談次《だんじ》、先生|遽《にわ》かに坐《ざ》を起《たち》て椽《えん》の方に出《いで》らる。その挙止《きょし》活溌《かっぱつ》にして少しも病後《びょうご》疲労《ひろう》の体《てい》見えざれば、予《よ》、心の内に先生の健康《けんこう》全く旧《きゅう》に復《ふく》したりと竊《ひそ》かに喜びたり。
 夫人|云《い》わるるよう、この頃|用便《ようべん》が至《いたっ》て近くなりまして、いつもあの通りで困《こま》りますと。やがて先生|座《ざ》に復《ふく》され、予、近日の飲食《いんしょく》御起居《ごききょ》如何《いかん》と問えば、先生、左右《さゆう》の手を両《りょう》の袖《そで》のうちに入れ、御覧《ごらん》の通り衣《きもの》はこの通り何んでも構《かま》いませぬ、食物は魚《さかな》并《ならび》に肉類《にくるい》は一切用
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