わ》りて先生先ず口を開き、この間《あいだ》、十六歳の時|咸臨丸《かんりんまる》にて御供《おとも》したる人|来《きた》りて夕方まで咄《はな》しましたと、夫人に向《むか》われ、その名は何《なん》とか言いしと。予、夫《そ》れは留蔵《とめぞう》ならんといえば、先生、それそれその森田《もりた》留蔵……それより談《だん》、新旧の事に及ぶうち、予|今朝《こんちょう》の時事新報に出《いで》たる瘠我慢《やせがまん》の説《せつ》に対する評論《ひょうろん》についてと題する一篇に、旧幕政府《きゅうばくせいふ》の内情を詳記《しょうき》したるは、いずれ先生の御話《おはなし》に拠《よ》りたるものなるべし、先生には能《よ》くもかかる機密《きみつ》を御承知《ごしょうち》にて今日までも記憶《きおく》せられたりといえば、先生、いや私が書生仲間《しょせいなかま》には随分《ずいぶん》かようなる事に常々《つねづね》注意《ちゅうい》し、当時の秘密《ひみつ》を探《さぐ》り出し、互に語《かた》り合いたることあり、なお洩《も》れたる事柄《ことがら》も多かるべし、ただ遺憾《いかん》なるは彼《か》の脇屋《わきや》某が屠腹《とふく》を命ぜられ
前へ 次へ
全21ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
木村 芥舟 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング