めて実物《じつぶつ》に接して、大《おおい》に平生《へいぜい》の思想《しそう》齟齬《そご》するものあり、また正しく符合《ふごう》するものもありて、これを要《よう》するに今度の航海は、諭吉が机上《きじょう》の学問《がくもん》を実《じつ》にしたるものにして、畢生《ひっせい》の利益これより大なるはなし。而《しこう》してその利益はすなわち木村|軍艦奉行《ぐんかんぶぎょう》知遇《ちぐう》の賜《たまもの》にして、終《つい》に忘《わす》るべからざるところのものなり。芥舟先生は少小より文思《ぶんし》に富《と》み、また経世《けいせい》の識《しき》あり。常に筆硯《ひっけん》を友として老《おい》の到るを知らず。頃日《けいじつ》脱稿《だっこう》の三十年史は、近時《きんじ》およそ三十年間、我|外交《がいこう》の始末《しまつ》につき世間に伝《つた》うるところ徃々《おうおう》誤謬《ごびゅう》多きを憂《うれ》い、先生が旧幕府の時代より身《み》躬《みず》から耳聞《じぶん》目撃《もくげき》して筆記に存《そん》するものを、年月の前後に従《したが》い順次《じゅんじ》に編集《へんしゅう》せられたる実事談《じつじだん》なり。近年、
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